中国新疆ウイグル自治区で100万人以上のウイグル人が「強制収容所」に送られているとされる中、日本で暮らすウイグル人の多くが帰郷できない状況に置かれている。故郷に戻れば拘束される恐れがあるからだ。両親が収容所に入れられたり、家族と連絡が取れなくなったりしており、「毎朝起きると家族みんな大丈夫か心配で、日本にいても不安だらけ」と在日ウイグル人女性は漏らす。故郷の警察から脅迫まがいのメッセージも送り付けられ、苦悩は深まるばかりだ。



「死刑か無期懲役と宣告」=3回強制収容のウイグル人証言

 ◇「大阪に行くな」
 「元気ですか」「何をやっていますか」。ある在日ウイグル人の中国版LINE「ウィーチャット」には毎日のようにメッセージが入る。言葉は優しいが、相手は故郷の警官だ。
 このウイグル人は、病気を患う兄弟が日本で診察を受けることを望んでいる。それを知る警察から「日本行きを許すから、在日ウイグル人活動家に関する情報を提供してほしい」と、「スパイ」行為を迫られたが、断ったという。
 6月末に大阪で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)。習近平国家主席も初来日することから、多くのウイグル人が大阪に集結し、抗議デモを行うことになった。すると、複数の在日ウイグル人のもとに、長く音信不通だった親から突然連絡があり、「参加しないで」と説得された。警察の指示があったとみられる。
 警官から「両親がいることを忘れるな」とのボイスメッセージを直接送り付けられた在日ウイグル人もいた。家族を「人質」にした脅しだ。

 「中国大使館です」という自動音声電話を受けたウイグル人もいた。「無言の圧力」をかけたものだが、多くのウイグル人は大阪に向かった。G20サミットに限らず、抗議活動に参加する在日ウイグル人が最近増えている。法務省によると、日本在留の新疆出身者は2011年時点で1884人。抗議の際に顔を隠す人もいるが、「黙っていても改善しない。ウイグルで何が起こっているか発信しなければならない」と危機意識が高まっている表れだ。

 ◇帰化希望が大多数
 在日ウイグル人が「異変」を感じたのは17年1月ごろだった。多くの人が故郷の親から「家族を連れて帰ってこい」と電話を受けた。あるウイグル人女性の夫は、これに応じて帰郷してしまった。幸い拘束はされなかったが、日本に戻れなくなった。海外との接点を切りたい中国当局が、海外在住ウイグル人を帰郷させ、次々と強制収容所に送っていることがはっきりしたのは同年4月以降だ。
 また、在日中国大使館は、在日ウイグル人のパスポート(旅券)の期限が切れても更新せず、「故郷に帰って手続きをする」よう求めているという。17年秋に更新のため大使館を訪れたウイグル人女性は赤い中国旅券ではなく、2年間有効な青い「旅行証」を渡された。一度日本から離れれば戻って来られないことを意味する「一次入出境」のスタンプが押されていた。女性は間もなく旅行証の有効期限も切れる。

 日本で生まれたウイグル人の子の国籍登録ができず、無国籍になる問題も深刻化しそうだ。出入国在留管理庁は、旅券を持たないウイグル人の在留について「事情があればケース・バイ・ケースで柔軟に対応する」と説明している。

 帰郷できず、旅券も更新できない現実の中、在日ウイグル人の間では、日本に5年以上居住し、生活に困ることがないなどの条件を満たせば申請できる帰化を希望する人が大多数になっている。
 ウイグル問題に詳しい明治大商学部の水谷尚子准教授は「日本語もできず技能もない在日ウイグル人が多く、こういう人たちをどうするかが大きな問題。(定住化のため)日本語を教育する代わりに在留特別許可を与えるなどの制度も必要になってくる」と解説する。

時事
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