今年の7月5日で、中国の新疆(しんきょう)自治区のウイグル人が、ウルムチで大規模な抗議運動を起こしてから、10年になる。新聞各紙も当時の事件を振り返り、現在のウイグル問題に言及していた。
 ただし、それらの記事で、各紙そろって「ウイグル族」という表現が使われていたことは、極めて問題がある。

 そもそも、日本語で「〜族」というのは、「〜人」のような高度な文化や歴史、国家といった組織を持ったことのない、より下位の部族段階の人間集団を意味する言葉だ。例えば、アメリカのインディアン(今はアメリカ先住民と表現する)のアパッチ族や、南米アマゾンのヤノマミ族と言ったふうに。

 中国のチベット人やウイグル人を、日本のメディアがチベット族、ウイグル族としているのは、中国でそう表現しているものを、漢字が共通なので、無批判に流用しているからである。

 では、なぜ中国では「族」と表現するのか。それは、中国は56の民族で構成されているが、すべてを統合する「中華民族」という概念を作っているからだ。そのため、個々の民族を「〜人」とは言わず、「〜族」と表現する。したがって、日本で普通「中国人」と称し、正確には「シナ人」というべき人間集団も、「漢族」というわけである。

 つまり、中国は「中華民族」として単一民族国家であると主張しているわけであり、その目的は、チベット人やウイグル人らに、分離独立をさせないようにするためだ。この中華民族主義は、習近平国家主席が目標に掲げた「中華民族の偉大な復興」にも表れているが、共産党が創造したものではなく、古くは孫文が提唱していた。


 また、日本の新聞は、チベット人やウイグル人を、中国に倣(なら)って、「少数民族」と表記しているが、この表現にも問題がある。まるで、民族が独立する資格がない、弱小民族のように見せかけるための、意図的な政治用語ではないか。ウイグル人は人口1千万人以上、チベット人は数百万人もおり、「少数民族」であるはずがない。

 日本の新聞は、極めて深刻な中国の民族問題の基本的知識に関して、あまりにも無神経である。中華人民共和国の成立による、チベットやウイグルの併合は、歴史的に見ても明らかに侵略行為であり、決して単なる人権問題ではない。こんな報道姿勢では、日本の新聞は、侵略者の側に加担していることになる。


2019.8.18 産経
https://www.sankei.com/column/news/190818/clm1908180004-n1.html