「(非核化を)急がない」。ベトナム・ハノイでの米朝会談を巡ってトランプは米国内や国際社会の期待値を下げつつ、前向きに発信し続けたため、順調に進んでいたように見えた。だが、突如、席を立った。金正恩が完全に判断を誤ったのはなぜか。本当の原因を探る責任者探しが始まっていた。
■対米協議を最優先、北朝鮮リスク回避

習近平氏と金正恩氏による4回目の中朝首脳会談(1月、北京)=朝鮮中央通信・ロイター
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習近平氏と金正恩氏による4回目の中朝首脳会談(1月、北京)=朝鮮中央通信・ロイター

「習近平が、トランプに対して強気に出過ぎて失敗した金正恩と会うのは危険が大きい。『責任の一端は(後ろ盾の)中国にある』というぬれぎぬを着せられかねない。それは米中間の経済・貿易協議にもマイナスになる」

中国の国際問題専門家の見方である。習近平は2018年3月以降、4回も金正恩と会談した。「後ろ盾」と見られるのは当然だ。専用列車で中国内を通って帰国する金正恩と会えば5回目。どうしても世界の耳目を集めてしまう。

しかも18年6月12日にシンガポールで開いた第1回米朝首脳会談の設定に当たって、トランプはその前に一度、会談キャンセルを表明している。その際、示唆したのが、裏でうごめく中国への不快感だった。直前に金正恩が中国・大連で習近平と会ったことで急に強気になったのでは、という見立てである。

そもそも米国内には「中国が朝鮮半島を巡る権益を守るため、北朝鮮が米側へ安易に妥協しないよう後ろで巧みに糸を引いている」という疑念があった。習近平としてはいま、わざわざ火中の栗を拾いに行き、その疑念を膨らませる必要がない。

5日、全人代の会場を後にする中国の習近平国家主席(左)と李克強首相=横沢太郎撮影
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5日、全人代の会場を後にする中国の習近平国家主席(左)と李克強首相=横沢太郎撮影

中国からみても、北朝鮮を「核保有国」として認めるわけにはいかない。アジア唯一の国連安全保障理事会の常任理事国として、堂々と核兵器を持てる特権が色あせかねないからでもある。

習近平がトランプの意を受けて金正恩の説得に乗り出す奥の手はある。とはいえ過去の微妙な中朝関係の歴史からみて説得は難しい。荷が重過ぎるのだ。金正恩は先に、初めてとなる習近平の北朝鮮訪問を正式に招請している。だが、こうした経緯もあって早期訪朝は慎重に考えざるをえない。

しかも中国には特殊な事情がある。ヤマ場を迎えている米中経済・貿易協議をどうしても決着させなければならないのだ。それが習近平にとっての最優先事項である。さもなくば減速の著しい中国経済がさらなる打撃を受ける。

米中協議の間隙を縫う形で3月5日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が北京で開幕した。冒頭、演説した中国首相の李克強(リー・クォーチャン)は、19年の経済成長目標を「6〜6.5%」に引き下げざるを得なかった。足元の実態を見れば、この達成でさえかなりハードルが高い。

全文>>> https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42050760V00C19A3000000/?n_cid=NMAIL007

日経 2019/3/6