今週は、中国のいわゆる「南京虐殺記念館」を訪れた福田康夫元首相の批判を書こうかと思っていたところ、思いもよらない悲報に接した。

 私の友人で、ドイツ・ミュンヘンに本拠地を置く、亡命ウイグル人の組織「世界ウイグル会議」のドルクン・エイサ総裁のご母堂が亡くなったというニュースである。さっそく、ドイツのドルクン氏にお悔やみの電話をし、近況などを聞いた。
 米政府系放送「ラジオ・フリー・アジア」(RFA)(7月2日)によると、ドルクン氏の母、アヤン・メメットさんは享年78。中国当局が昨年春から強行した「過激主義者、誤った政治思想を持つ者を『再教育』する」キャンペーンで強制収容所に送られ、今年5月、所内で亡くなったそうだ。家族と連絡もとれないドルクン氏は先月、この事実を知らされた。

 ドルクン氏は現在50歳。天安門事件の前年(1988年)、新疆大学在学中に、ウルムチで、大規模な学生の反政府デモを組織し、挙行した。その後、自宅軟禁を経て、94年に国外へ脱出。トルコ経由でドイツに亡命した。現在はドイツ国籍を持ち、中国政府によるウイグル人弾圧の非道を、国際社会に訴える活動をしている。

 中国政府は2003年、彼を「テロリスト」リストに登録し、現在も国際指名手配している。だが、ドイツをはじめとする国際社会は、それを認めていない。

 彼の「世界ウイグル会議」は米国から資金援助を受けているし、国連の人権理事会や、欧州議会では、よくスピーチしている。何度も来日して、「ウイグル問題」を訴えている。


 ドルクン氏は、国を出て以来、一度も母に会っていない。「生きているうちに一目会いたい」と、よく話していた。

 弟は過去に、国外でドルクン氏に接触して帰国し、中国当局に逮捕されたことがある。その直後、久方ぶりに母と電話できたとき、ドルクン氏は電話口で泣いてしまった。気丈な母は「私が泣かないのに、なぜあなたが泣くの!」と叱り飛ばしたと聞いた。

 その強き母が、強制収容所で亡くなった。

 息子がどうであれ、また、いくら気丈だといっても、77歳の女性を「思想再教育の必要あり」として強制収容所に入れるなど、普通の国ではあり得ない。中国当局は鬼だ。

 こういう国と、さしたる警戒もないまま、またぞろ「関係改善」と言い出す、日本のマスメディアや元要人らは何を考えているのか?

 残念ながら、「ウイグル問題」は、日本であまり知られていないが、それでも、ドルクン氏らウイグル人活動家と交流を続けてきた政治家が少数ながらいる。安倍晋三首相と、側近の衛藤晟一首相補佐官、古屋圭司衆院議員らだ。

 安倍首相は第2次政権発足後、接触していないが、古屋、衛藤両氏はスタンスを変えていない。

 私が、安倍晋三という政治家を根本のところで信頼しているのは、こうした事情もある。今改めて思うことは、「一人でも多くの日本人に、友人・ドルクン・エイサの悲しみと苦闘を知ってほしい」ということだ。そのうえで、真に適切な隣国との関係を考えるべきである。

2018.7.6 夕刊フジ
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180706/soc1807060010-n1.html