3月末からの短期間で北朝鮮の労働党委員長、金正恩(キム・ジョンウン)を3度も訪中させた中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)。一見、これこそが米国防長官のマティスが6月15日、海軍大学の卒業式で指摘した最盛期の漢民族王朝の一つ、明朝(1368〜1644年)をモデルにした周辺国の「朝貢体制」の復活に見える。
 その実、金正恩はこの隣国への頻繁な「朝貢」を極めてうまく利用している。超大国である米国の大統領、トランプと歴史的なシンガポール会談で約束した「非核化」を巡って、その手法、時間的問題で譲歩を引き出す手段に使えるからである。制裁緩和でも米国を横目に中国は北朝鮮に融和的だ。

 北朝鮮側の報道によると6月19、20日の中朝首脳会談では「新たな情勢下で戦略的、戦術的な協力をさらに強化するための問題」を協議したという。金正恩と習近平のどちらが「使われている」のかは微妙だ。しかも習近平は、金正恩の「三顧の礼」に応えて7月にもトップとして初めて訪朝する可能性が高い。

■「安倍再選」前提に年内に中国で日中韓首脳会談

20日、北京の釣魚台迎賓館で会談する北朝鮮の金正恩委員長(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=新華社・共同
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20日、北京の釣魚台迎賓館で会談する北朝鮮の金正恩委員長(中央左)と中国の習近平国家主席(同右)=新華社・共同

 とはいえ、習近平は、その金正恩の「三顧の礼」に満足せず、次の段階を見据えた対外戦略の布石を打ち始めている。

 「次々変化する国際的な乱流現象(乱象)に方向を見失わないようにすべきだ」。習近平は、金正恩が北京を離れた後の6月22、23両日、共産党の中長期的な対外政策、外交方針を決める中央外事工作会議を開き、こう強調した。

 この外事工作会議に出席した幹部らはメモを禁じられており、全ての内容が公表されたわけでもない。だが、習近平演説から見て取れるのは、国際秩序の大変化への危機感と、それに乗じて中国の存在空間を広げる野心である。中国は米朝会談を踏まえた安全保障、経済両面の情勢激変を視野に入れている。それは日本にも大きく関係する。

 中国は、自らの思惑通り今回、米韓軍事演習の中止まで決断したトランプの時代のうちに次のステップがありうるとみている。トランプが口にした在韓米軍の縮小・撤退は、中国が下手に動かなくても自然に実現してしまう可能性さえあるのだ。

 そればかりではない。中国は近い将来、在日米軍基地の縮小問題にまで発展する事態まで見据えている。トランプは在留のコストを理由にしているのだから。それなら今、日本と事を構えている場合ではない。日本側に不必要な対中警戒感を抱かせないのが得策である。

 その手段は、「対中強硬派」とみてきた首相の安倍晋三の“懐柔”である。それは、5月の中国首相、李克強(リー・クォーチャン)の訪日時の発言にも表れていた。当初の予想を覆して、安倍の年内訪中を招請したのだ。

 安倍は9月に自民党総裁選を控えている。森友、加計問題もくすぶっており、なお再選確定ではない。にもかかわらず、中国は安倍再選を前提に招請に踏み切った。過去の経緯からすると、驚くべき思い切った決断である。好き嫌いにかかわらず「安倍長期政権」を予想し、「話をするしかない」と見ているのだ。

 もちろん中国共産党内にも異論があった。こうした新方針に関して「安倍へのすり寄りではないか、という批判もないわけではない」(中国筋)。だが、国際情勢の大変化は、その声を吹き飛ばしてしまった。

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日経 2018/6/26