毎年秋になると、中国の最西部に住むパキスタン人商人らは、中国人の妻たちにひと時の別れを告げる。古代シルクロード(Silk Road)の一部だった山深いカラコルム・ハイウエー(Karakoram Highway)をたどって国境を越え、自国で冬を過ごすためだ。
 雪が積もる頃、男たちは離れ離れになった妻たちと電話で連絡を取り合う。だが昨年、そのような電話の多くが突然通じなくなった。

 後に男たちは、中国に残してきた家族が、イスラム系少数民族ウイグル人を排除するための謎に包まれた「再教育収容所」に送られたことを知った。「妻と子どもたちは昨年3月、中国当局に連れ去られた。それ以来、家族とは連絡が取れていない」とイクバルさんは語った。

 昨年7月、イクバルさんは家族を見つけるために中国へ向かったが、国境で追い払われた。イクバルさんはAFPに対し、中国当局者から「妻は『訓練』を受けており、子どもたちの世話は政府がみている」と言われたと説明した。

 中国・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)と国境を接するパキスタンのギルギット・バルティスタン(Gilgit-Baltistan)州の議員、ジェイブド・フセイン(Javed Hussain)氏によると、ビザやビジネス上の理由でパキスタン側に戻り、中国に住むウイグル人の家族と連絡が取れなくなった男性は州内に多数いるという。

 そうした多数のパキスタン男性の場合と同様、イクバルさんの家族も中国・パキスタン経済回廊(CPEC)沿いにあるウイグルの古都カシュガル(Kashgar)に住んでいた。

 中国は近年、パキスタンとの関係強化に力を入れており、インフラ事業であるCPECに何百億ドルもの資金をつぎ込んでいる。だが、中国は開発の野望と、ウイグルの分離独立派がパキスタンから暴力を国内に持ち込むのではないかという恐怖の間で折り合いをつけることに苦心している。

■「過激主義者の排除」

 中国当局は長年、ウイグルのイスラム教徒に対する弾圧を国際テロ対策のためだと主張してきた。ここ数年は、テロリスト、宗教過激派、分離独立派を「3大勢力」と呼び、徹底的に排除する方針を強めている。

 2017年、中国政府は「過激主義者を排除する」ためとして、ウイグルに何万人もの治安要員を送り込んだ。都市部ではほぼ1区画ごとに警官の詰め所が設置され、厳しい法律が制定された。これにより、分離独立派に共感を抱いたと疑われるものは誰でも、強制的に「再教育」されることが増えた。

 イクバルさんを含むパキスタン男性らは、自分の妻、時には仕事上のパートナーまでもが当局の標的にされたのは、パキスタンから電話やメッセージを受け取ったためだと信じている。

 中国当局は再教育収容所の存在を否定している。だが、昨年3月にウイグルで可決された過激主義を取り締まる法律は、当局に政治的再教育の強化を求めている。

 米議会の出資により設置された放送局ラジオ・フリー・アジア(Radio Free Asia、RFA)によると、1月に収容所に送られた人数は、カシュガルだけでも12万人以上に上るという。これはこの地域の人口の約3%に当たる。

 AFPが国営メディアと政府資料を基に調べたところ、少なくとも30か所以上の収容所が存在し、約4000人が収容されたことを確認できた。

 ビジネスマンのアリさんは、12月から妻と連絡が取れていない。アリさんは、妻が当局によって連れ去られ「共産主義について教えを受け、愛国者になるための訓練」を受けていると述べた。

「妻は、家に中国の警察がやって来て、パキスタンから電話がかかってくることについて聞かれ、東トルキスタン・イスラム運動(East Turkestan Islamic Movement、ETIM)とのつながりを説明するよう言われたと私に言っていた」とアリさんは言う。ETIMは、中国当局がウイグルの分離独立主義を扇動していると非難している組織だ。

 アリさんは5月に家族を捜すために中国入りする計画だが、子どもたちは中国政府が保護しているといわれており、再び家族に会うことができるかどうか分からないと言う。「彼らは何も教えてくれない。家族は訓練を終えたら戻って来ると言うだけだ」

2018年4月30日  AFP
http://www.afpbb.com/articles/-/3170991