2008年に中国チベット自治区ラサを中心にチベット人の大規模な暴動が発生してから14日で10年。インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府は中国に対し、自治区での「高度の自治」実現を求めているが、中国側との対話は進んでいない。中国では抗議の焼身を図るチベット人が相次ぎ、亡命チベット人の間には怒りが渦巻いている。
 「チベットに自由を!」。米政府系の自由アジア放送(RFA)などによると、中国四川省で7日、40代のチベット人男性がこう叫んで自らに火を放ち死亡した。男性は普段から中国への不満を口にしていたという。「チベットは中国の抑圧により、人が住める場所ではなくなった。焼身はその証明だ」。亡命政府のロブサン・センゲ首相は声明でこう嘆き、改めて中国に対話を呼びかけた。

 チベット僧や市民による抗議の焼身は暴動の翌年の09年に始まった。その数は150人以上に上り、少なくとも130人が死亡している。ニューデリーで取材に応じたダラムサラの亡命チベット僧、ベン・バグドロさん(45)は「チベットでは暴動以来、監視がいっそう厳しくなり、亡命も難しくなった。焼身以外に抗議の方法がない」と語る。

 バグドロさんも過酷な経験をしている。1988年3月、ラサで抗議デモに加わり警官隊と衝突。発砲で左足を負傷し拘束された。ラサの刑務所で3年間、政治犯として過ごし「連日、電気ショックなどの拷問を受けた」。国際人権団体の助けで91年に解放されインドへ亡命。「チベットに人権はない。中国は暴力的だ」と語る。

 ラサ暴動ではデモ隊が警官隊と衝突し、他地域にも暴動が拡大。中国政府によると市民ら約20人が死亡したとされるが、亡命政府は数百人が死亡したと主張している。北京五輪直前だったことから国際的な注目を集めた。北京では2022年も冬季五輪が予定されており、「チベット人は必ずまた声を上げる」(ニューデリーの亡命チベット人2世)との観測もある。バグドロさんは言う。「チベットは我々の国だ。決してあきらめることはない」

中国は情勢安定を強調
 ラサ暴動を「海外の独立勢力による策謀」とみる中国当局は、治安要員による警備と報道、インターネット統制を通じてチベット自治区で暴動再発の抑え込みを図っている。再発は、社会の安定や民族団結をうたう共産党独裁の脅威となりかねないためだ。

 「米国で焼身があっても不思議ではない。だがチベットでは起きていない」。8日の全国人民代表大会(全人代=国会)の分科会で、チベット族の焼身報道について米紙記者から問われた呉英傑・チベット自治区共産党委書記は皮肉交じりに答え、自治区の情勢安定などを強調した。

 2月17日、ラサ中心部のチベット仏教聖地、ジョカン寺(中国名・大昭寺)で火事があったが、4日後に国営新華社通信が文化財に被害はないとニュース配信するまで詳細は伝わらなかった。ラサ暴動では同寺周辺が現場となったため、当局が厳しい情報管制を敷いたとみられる。

毎日新聞 2018年3月13日
https://mainichi.jp/articles/20180314/k00/00m/030/095000c