中国で国家政権転覆罪で服役し、出所後も監視下にあった映像作家のドンドゥプ・ワンチェンさん(43)が29日までに中国を出国し、亡命した妻子が暮らす米国に到着した。ドンドゥプさんを待つ家族のドキュメンタリーを撮影した映画監督、小川真利枝さん(34)=長野市=が、サンフランシスコ国際空港で立ち会った。
 ドンドゥプさんは2007〜08年、中国・青海省のチベット族自治州などで、北京五輪開催への率直な意見やチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を慕う庶民の声を収録。直後に拘束され、09年末に懲役6年の判決を受けた。14年に出所後も自由な行動が制限されていた。

 この間、収録素材は支援者らにより08年にドキュメンタリー映画「ジグデル〜恐怖を乗り越えて〜」として公開。一方、小川さんは09年、ドンドゥプさんの解放を訴える妻ラモツォさん(45)とインドで知り合い、家族愛をテーマに撮影を始め、今月18日、ドキュメンタリー映画「ラモツォの亡命ノート」を発表した。小川さんは「家族が離れ離れになって10年が目前になり、映画公開を決意した。公開と同時に家族が本当のエンディングを迎えられて、最高の結末になった」と話した。

 スイスの支援団体は、出国の経緯については詳細を明かさず「当局の監視を免れて自宅のある町から中国に離れ、複数の国を経由した」としている。小川さんによると、出国後のドンドゥプさんと家族が初めてインターネット電話のスカイプで話したのは17日未明。画面越しに「心配していた」「よかった」と無事を喜ぶ子どもたちに、ドンドゥプさんは言葉が出ず、顔を手で覆い、ただ涙を流していたという。

 ドンドゥプさんは25日、米国に到着。小川さんに「今もチベットには、かつての自分と同じように罪もなく逮捕され行方不明のままの人がいる。自分は特別な存在ではない」と語ったという。

 「ラモツォの亡命ノート」は30日から横浜シネマリン(横浜市中区)で、2018年1月13日から第七芸術劇場(大阪市淀川区)で上映される。

2017年12月29日 毎日
https://mainichi.jp/articles/20171230/k00/00m/030/016000c