[映画.com ニュース] 2015年、第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で「河」のタイトルで上映され、4月29日から日本で初のチベット人監督作品として劇場公開される「草原の河」。厳しい自然の中で牧畜を営む家族の姿を女児の目を通して描いた物語だ。ソンタルジャ監督が自身のキャリアと作品を語った。

家族は牧畜民で、私も10歳まで牧畜地で育った。「父親は学校の教師で、チベットの伝統的仏教画“タンカ”を描いたり、楽器を演奏したり、文化に親しんでいる人でした。私が美術の世界に進んだのは、父親の影響が強くあります」
初めて映画を見た日のことをこう回想する。「私が暮らしていた地域には映画館はなく、スクリーンを張った屋台のような移動映画がたまに広場に来てくれました。周りの人たちがスクリーンに釘付けになっている時、私はなぜスクリーンに映画が映るのか関心を持ち、スクリーンの裏にまわってしまうような子供でした」

「幼少の頃より私は映画が好きでしたが、大学は青海省の大学に進学しました。北京や上海の大学は中国語の試験があり、母語で暮らしていた私にとって都市部で映画を学ぶには言語の壁があったのです。大学では美術を専攻し、その後、ペマ・ツェテン監督と出会い、“デジタル社会の今だからこそ、チベット人も映画が撮れる”と言われた事がきっかけで、奨学金を受け北京電影学院で映画を学ぶことになったのです」

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2作目の長編作品で、母親役以外は全員が牧畜民の素人を起用。娘役のヤンチェン・ラモは上海国際映画祭2015で最優秀女優賞を受賞した。「子供が生まれたことをきっかけに、当初は子供のための映画をつくりたいと思っていて、そんな時、ヤンチェン・ラモと出会いこの物語を思い浮かべました。私は仏教徒として人間の<縁>を大切にしていて、その信条で映画作りも行っています」

「チベット地区から中国中心部に演技を学びに行く機会はとても少なく、チベット人のプロの俳優は多くありません。そのような状況もあり、本作品では素人をやむなく起用した面もありますが、演技を学んできた人は、時に学んだ事が演技に出てしまいすぎる事があるので、今回の私の映画には向いていないとも思いました。主人公のヤンチェン・ラモはもちろん、父親を演じたグルも、素人の人が持つ自然さと純粋さがあふれ、また自分たちの日頃の暮しと同じことが映画で描かれるので、結果的に、草原で牧畜を営む人々を起用して正解だったと思います」

日本での劇場公開を前に、観客に向けメッセージを寄せた。「多くの人々は、チベット人に対して、ベールに包まれたミステリアスな部分に興味を持たれていると思います。しかし、チベット人も愛情、悲しみ、怒りなど、他の世界の人々と同じ感情を持っている。私はこの映画を通じて、宗教や国を超えてチベット人も世界の人々と同じく普遍的な心情を持っていている普通の人間であると伝えたかったのです。日本の皆さんが見ても、映画の人物たちに共感してもらえると思います」

「草原の河」は4月29日から岩波ホール他で公開。

2017年4月28日 映画ドットコム
http://eiga.com/news/20170428/14/