インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相(48)が来日し、東京都内で産経新聞の単独インタビューに応じた。中国政府によるチベット人への弾圧の実態を訴え、東シナ海や尖閣諸島(沖縄県石垣市)での中国の動きを念頭に、日本もチベットの経験から学ぶべきだと語った。(広池慶一)

 チベットの悲劇は現在も続いています。2009年以降、145人のチベット人が焼身自殺で命を落としました。報告を受ける度に胸がとても痛みます。


決死の行動は、国際社会に救いを求めるメッセージです。亡命政府は、最も大事なのは命であり、焼身自殺をしないよう訴えていますが、彼らは自殺を図り、究極の犠牲を払うのです。

 チベットでは伝統建造物も次々と破壊されています。中国政府は現在「ラルンガル」と呼ばれる東チベット最大の仏教僧院の解体を進めています。1万2000人ほどいる僧侶や尼僧を追放し、5000人ほどに減らす計画です。「アチェンガル」でも寺院の破壊、僧侶たちの追放、宗教活動の禁止が日常的に起きており、追放される者は、この地に二度と戻らないという誓約書に署名させられます。

 08年の北京オリンピック以前は、1年間で最大5000人のチベット人がインドに亡命していました。亡命が増える季節は国境警備が手薄になる冬です。極寒のヒマラヤ山脈を越えるには2〜5週間かかります。亡命者の中には10歳に満たない子供も含まれ、凍傷で指を失う人も少なくありません。

 ただ、最近は亡命者が減少しています。中国政府がネパール政府に圧力をかけ、国境警備を強化しているからです。ネパールは中国の“衛星国”と化してしまいました。中国政府は「投資のおかげで、チベット人はみな幸せに暮らしている」と宣伝しているので、何千人も亡命者が出ると不都合なのでしょうね。

 亡命者は捕まれば、刑務所に入れられ拷問を受けます。極寒の部屋に閉じ込められたり、電気棒で殴打されたり…。ダライ・ラマ14世の写真を所持するだけで問題視され、少人数でもデモを起こせば連行されます。刑務所の中で死亡する人は多く、出所できても五体満足ではありません。何年もかけて拷問で殺されるよりも、自分自身を焼き、一瞬で死を迎える方がいいと考えてしまいます。

 日本は同じ仏教国で、世界に強い影響力を持つ偉大な国です。チベットの現状への理解と支援を目的とする「日本チベット国会議員連盟」の取り組みは、国際社会に前向きなメッセージを発信します。「日本はチベット人とともにある」というメッセージは、弾圧に苦しむチベット人たちの希望になっています。

 チベット問題は、われわれだけの問題ではありません。どこの国でも同じことが起こりえます。約60年前、中国がチベットを侵攻したとき誰も関心を示しませんでした。中国が近年、尖閣諸島やスプラトリー(中国名・南沙)諸島、東シナ海に進出すると、周辺諸国はようやく危機感を持つようになりました。中国の手法はチベットへのやり方と同じです。中国に備えるのであれば「チベットに学べ」。これがわれわれからのメッセージです。

 私はチベットの自治を非暴力で求める「中道政策」を通じ、チベット問題を解決できると信じています。南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領は27年も投獄されていましたが、民主主義の礎を築きました。ベルリンの壁が崩壊すると予想した専門家は当時1人でもいたでしょうか。ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相も数年前までは自宅軟禁状態だったのです。

 短期間に大きな変化をもたらした例はたくさんあります。与えられないのであれば、つかみ取るしかありません。だから私たちはいつもこう言っているのです。「次は私たちの番だ」と。

産経 2017.03.06
http://www.sankei.com/world/news/170306/wor1703060061-n3.html