2015年夏に中国で人権派弁護士らが一斉に拘束された事件で、逮捕された弁護士の1人が取り調べ中、当局から拷問や虐待を受けていた、と面会した弁護士が明らかにした。精神的に追い込まれた状況で罪を認める調書にサインさせられたが、本人は無罪を主張しているという。
■40時間休みなし・カメラ死角で暴行
拷問などを受けていたのは、15年7月に拘束された湖南省の謝陽弁護士(45)。ネット上で政府や司法機関、法制度などを攻撃したとして、昨年12月に国家政権転覆扇動罪で起訴された。1月、弁護人として5日間にわたって面会した陳建剛弁護士(37)らが、本人から聞き取った内容をネット上に公開した。
■40時間休みなし・カメラ死角で暴行
拷問などを受けていたのは、15年7月に拘束された湖南省の謝陽弁護士(45)。ネット上で政府や司法機関、法制度などを攻撃したとして、昨年12月に国家政権転覆扇動罪で起訴された。1月、弁護人として5日間にわたって面会した陳建剛弁護士(37)らが、本人から聞き取った内容をネット上に公開した。
面会記録と陳弁護士の話によると、謝弁護士は湖南省の公安当局に拘束された後、40時間以上休みなしで取り調べを受けた。その後も1週間は、ほぼ連日20時間ほど取り調べられ、睡眠時間は2時間ほどだった。
拷問や虐待の態様は様々だ。足が宙に浮く状態でイスに座らされ、下半身は腫れてマヒ状態に。カメラの死角で殴る蹴るの暴行を受けたり、周りから一斉にたばこの煙を吹き付けられたり。「罪を認めなければ、大学で働く妻や友人も苦しめるぞ」といった脅しなども受けていた。
謝弁護士は途中、休憩を求めたが認められず、3日目には泣き出すなど精神的におかしくなった。それでも休ませてもらえないため、当局の要求通りに罪を認める文章を書き、署名した。当局は、売名目的か金銭目的か共産党に反対する目的か、三つのうちのどれかの動機を自供するよう求めてきた。
16年1月には逮捕され、身柄が看守所(拘置所に相当)に移された。当局は自白の強要がなかったとする調書に何度も署名させようとしたが、謝弁護士は拒否し続けたという。
陳弁護士によると、面会には当局は同席せず、カメラはあったが、音声はとられていなかったとみられる。謝弁護士は1年半以上の拘束でやせたものの、今は精神的に落ち着いた状態。「調書の内容は事実ではない。虐待され、生き地獄のような状況で自白を強要された」と話している。面会記録の公開は、謝弁護士と相談して決めたという。
一斉拘束事件では、捕まった人に、家族らが依頼した弁護人が面会できないケースが多い。「本人が拒否した」などの理由で当局寄りの弁護士を付けるためだ。仲間の弁護士が面会できたのは珍しい。
陳弁護士は「当局は法律の規定など全く気にせず、やりたい放題だ。捕まっている他の弁護士も同じような虐待を受けているはずだ」と憤った。面会記録は中国内のネット上からは削除されているが、弁護士仲間が「拷問反対」などと書いた紙を掲げて抗議する写真が広まっている。
中国政府は謝弁護士らへの拷問について、「でたらめだ。中国は一貫して法に基づいて処理している」(3日の外務省会見)と反論している。
■「薬飲まされた」
一連の事件では、1月中旬に保釈された李春富弁護士(44)が精神を病んでいたことから、取り調べ中の虐待が疑われた。その後、捜査当局が取り調べ期間中、拘束した人たちに何らかの薬物を使っていることが分かってきた。
春富さんは拘束が続く李和平弁護士の弟。和平さんの妻、王峭嶺さん(45)によると春富さんは拘束直後、身体検査を受けて高血圧と判断され「降圧剤」とされる2粒の薬を毎日飲まされていたという。王さんは「春富さんはそれまで健康で悪いところはなかった。高血圧の薬とは思えない」と疑う。
王さんは、夫と同様に拘束中の王全璋弁護士の妻、李文足さん(31)と一緒に、釈放された別の3人からも「薬を飲まされていた」との証言を直接聞いた。病気の症状がないのに、統合失調症の薬や睡眠薬を処方された人もおり、1人は毎日20粒飲まされていた。4人とも「薬を飲んだ後は、意識がもうろうとした」と話したという。
王さんと李さんは「弁護人と面会できていない夫たちの境遇も心配。ただ、虐待の真相が明らかになれば、国際社会の注目も集まり、当局への圧力になる」と話した。
(北京=延与光貞)
■「目的は弾圧・迫害」 面会の陳弁護士
――家族が依頼した弁護人に面会できない人もいるのに、なぜ会えたのか。
謝弁護士は、死んでも当局の弁護士は断る姿勢を貫いた。法律上、弁護人がいなければ裁判は開けない。裁判が近づき、当局も仕方なく面会させたのだろう。
――謝弁護士の話した内容に疑問や誇張はないか。
取り調べだけが彼が向き合う全てだし、裁判に備えて一部記録も残している。真実のみを語ってくれと何度も伝えてある。真実を語っていることは保証する。
――今回の事件で当局の目的は何だと考えるか。
人権派弁護士の弾圧、迫害だろう。特に活動の先頭を走る弁護士らが狙われた。当局は弁護士事務所への管理を強め、人権派弁護士を制度内から消し去ろうとしている。地方の警察の判断でやっていることではなく、中央政府の意思だ。
――この状況を改善するには、どうしたら良いか。
問題は法律ではない。法律の規定はあるが、役に立っていない。法律も無限の権力を縛ることはできない。根本的な問題は体制だ。民主国家には権力の均衡が働く。三権分立があれば、法を執行する警察を立法府が法律で拘束し、独立した司法が裁く。市民やメディアの監督も受ける。それが中国にはない。
――あなた自身は怖くないのか。
もちろん怖いが、問題があるのに避けることはできない。捕まったら、自分がどこまで耐えられるか分からないが、外にいるうちは発言できる。これは人として最も基本的な権利だ。
(聞き手・延与光貞)
■取り調べ中に当局者が謝陽弁護士にかけた言葉
「人権派弁護士グループを反共産党、反社会主義と判断した。お前が抜けるなら、寛大に処理してやる」
「狂うまで苦しめてやる。外に出てまた弁護士ができるなんて思うなよ。お前は今後、ただの廃人だ」
「外に出たら告訴できるなんて思うなよ。これは北京(中央政府、党中央)の案件なんだ。お前が死んだって、俺たちがやったという証拠は一切残らない」
「監視カメラは我々が管理している。役に立つなんて思うな。お前は反革命罪なんだ」
「他の人権派弁護士の関与を明かせば、寛大に処理してやる。保釈してやってもいい」
「党と政府を信じることだけが唯一の道だ。罪を認め、おかしなことを言わなければ、早く家に帰れる」
(謝陽弁護士の面会記録から)
2017年2月7日 朝日
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12784666.html?_requesturl=articles%2FDA3S12784666.html&rm=150
拷問や虐待の態様は様々だ。足が宙に浮く状態でイスに座らされ、下半身は腫れてマヒ状態に。カメラの死角で殴る蹴るの暴行を受けたり、周りから一斉にたばこの煙を吹き付けられたり。「罪を認めなければ、大学で働く妻や友人も苦しめるぞ」といった脅しなども受けていた。
謝弁護士は途中、休憩を求めたが認められず、3日目には泣き出すなど精神的におかしくなった。それでも休ませてもらえないため、当局の要求通りに罪を認める文章を書き、署名した。当局は、売名目的か金銭目的か共産党に反対する目的か、三つのうちのどれかの動機を自供するよう求めてきた。
16年1月には逮捕され、身柄が看守所(拘置所に相当)に移された。当局は自白の強要がなかったとする調書に何度も署名させようとしたが、謝弁護士は拒否し続けたという。
陳弁護士によると、面会には当局は同席せず、カメラはあったが、音声はとられていなかったとみられる。謝弁護士は1年半以上の拘束でやせたものの、今は精神的に落ち着いた状態。「調書の内容は事実ではない。虐待され、生き地獄のような状況で自白を強要された」と話している。面会記録の公開は、謝弁護士と相談して決めたという。
一斉拘束事件では、捕まった人に、家族らが依頼した弁護人が面会できないケースが多い。「本人が拒否した」などの理由で当局寄りの弁護士を付けるためだ。仲間の弁護士が面会できたのは珍しい。
陳弁護士は「当局は法律の規定など全く気にせず、やりたい放題だ。捕まっている他の弁護士も同じような虐待を受けているはずだ」と憤った。面会記録は中国内のネット上からは削除されているが、弁護士仲間が「拷問反対」などと書いた紙を掲げて抗議する写真が広まっている。
中国政府は謝弁護士らへの拷問について、「でたらめだ。中国は一貫して法に基づいて処理している」(3日の外務省会見)と反論している。
■「薬飲まされた」
一連の事件では、1月中旬に保釈された李春富弁護士(44)が精神を病んでいたことから、取り調べ中の虐待が疑われた。その後、捜査当局が取り調べ期間中、拘束した人たちに何らかの薬物を使っていることが分かってきた。
春富さんは拘束が続く李和平弁護士の弟。和平さんの妻、王峭嶺さん(45)によると春富さんは拘束直後、身体検査を受けて高血圧と判断され「降圧剤」とされる2粒の薬を毎日飲まされていたという。王さんは「春富さんはそれまで健康で悪いところはなかった。高血圧の薬とは思えない」と疑う。
王さんは、夫と同様に拘束中の王全璋弁護士の妻、李文足さん(31)と一緒に、釈放された別の3人からも「薬を飲まされていた」との証言を直接聞いた。病気の症状がないのに、統合失調症の薬や睡眠薬を処方された人もおり、1人は毎日20粒飲まされていた。4人とも「薬を飲んだ後は、意識がもうろうとした」と話したという。
王さんと李さんは「弁護人と面会できていない夫たちの境遇も心配。ただ、虐待の真相が明らかになれば、国際社会の注目も集まり、当局への圧力になる」と話した。
(北京=延与光貞)
■「目的は弾圧・迫害」 面会の陳弁護士
――家族が依頼した弁護人に面会できない人もいるのに、なぜ会えたのか。
謝弁護士は、死んでも当局の弁護士は断る姿勢を貫いた。法律上、弁護人がいなければ裁判は開けない。裁判が近づき、当局も仕方なく面会させたのだろう。
――謝弁護士の話した内容に疑問や誇張はないか。
取り調べだけが彼が向き合う全てだし、裁判に備えて一部記録も残している。真実のみを語ってくれと何度も伝えてある。真実を語っていることは保証する。
――今回の事件で当局の目的は何だと考えるか。
人権派弁護士の弾圧、迫害だろう。特に活動の先頭を走る弁護士らが狙われた。当局は弁護士事務所への管理を強め、人権派弁護士を制度内から消し去ろうとしている。地方の警察の判断でやっていることではなく、中央政府の意思だ。
――この状況を改善するには、どうしたら良いか。
問題は法律ではない。法律の規定はあるが、役に立っていない。法律も無限の権力を縛ることはできない。根本的な問題は体制だ。民主国家には権力の均衡が働く。三権分立があれば、法を執行する警察を立法府が法律で拘束し、独立した司法が裁く。市民やメディアの監督も受ける。それが中国にはない。
――あなた自身は怖くないのか。
もちろん怖いが、問題があるのに避けることはできない。捕まったら、自分がどこまで耐えられるか分からないが、外にいるうちは発言できる。これは人として最も基本的な権利だ。
(聞き手・延与光貞)
■取り調べ中に当局者が謝陽弁護士にかけた言葉
「人権派弁護士グループを反共産党、反社会主義と判断した。お前が抜けるなら、寛大に処理してやる」
「狂うまで苦しめてやる。外に出てまた弁護士ができるなんて思うなよ。お前は今後、ただの廃人だ」
「外に出たら告訴できるなんて思うなよ。これは北京(中央政府、党中央)の案件なんだ。お前が死んだって、俺たちがやったという証拠は一切残らない」
「監視カメラは我々が管理している。役に立つなんて思うな。お前は反革命罪なんだ」
「他の人権派弁護士の関与を明かせば、寛大に処理してやる。保釈してやってもいい」
「党と政府を信じることだけが唯一の道だ。罪を認め、おかしなことを言わなければ、早く家に帰れる」
(謝陽弁護士の面会記録から)
2017年2月7日 朝日
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12784666.html?_requesturl=articles%2FDA3S12784666.html&rm=150