20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれた9月4、5日両日、そして閉幕後の6日。900万人の大人口を抱える中国の杭州市は薄曇り、にわか雨だった。

 国家主席、習近平の晴れの舞台であるG20の成功を演出するため、周辺の工場は8月下旬から最大16日間もの全面操業停止を地元政府から言い渡されていた。それでも効果は限られていた。

■習・オバマの微妙な西湖散歩
 そしてもう一つ。中国側が、G20の成功を演出するため目玉の一つにしたいイベントがあった。米大統領、オバマの大統領任期中の最後の訪中である。

 習近平とオバマは9月3日夜、「人間の楽園」と称される杭州の名勝、西湖のほとりを2人で散歩した。特別待遇である。その途中で腰を下ろし、龍井茶で喉を潤した。とはいえ両人の表情は今ひとつさえない。

西湖のほとりで龍井茶を飲む習近平国家主席とオバマ大統領(中国国営テレビの映像から)
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西湖のほとりで龍井茶を飲む習近平国家主席とオバマ大統領(中国国営テレビの映像から)
 それもそのはず。これに先立つ、中国での最後の米中首脳会談と習近平・オバマの夕食会は愉快なものではなかった。

 習近平にとって対米関係での最大の課題は、実は南シナ海問題ではない。2013年6月の訪米時に華々しく打ち出した米国との「新しい形の大国関係」を米国に受け入れさせるメドをつけることだった。米中両国が互いに“核心的な利益”を尊重し、事実上、世界を仕切るという野心的な試みだ。

 もし、これを半分でも達成できれば、南シナ海問題などは大筋、解決したも同然である。しかし、ついにオバマの時代には実現しないことがはっきりした。習近平にとっては大きな挫折だった。

 中国の国営メディアの報道は、さも米中の新しい形の大国関係の構築が進んでいるかのように報じている。だが、オバマはこれに一切、触れていない。会談では、南シナ海問題について国際法に基づく解決に言及した。先の仲裁裁判所による判決の受け入れを中国に迫っていた。

 この「大国関係」という課題は、中国の内政上も大きな問題をはらむ。習近平は、来年の共産党大会の最高指導部人事を主導したい。そのためには外交上の実績も重要だ。だが、米国との関係を中心にした対外戦略は思うように動かない。これでは、自ら掲げた「中国の夢」の実現も危うい。

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2016/9/7 日経