中国から昨年末に国外退去となったフランスのウルスラ・ゴーティエ記者が産経新聞の独占インタビューに応じ、中国政府は国際社会での反イスラム過激派テロの機運の高まりに乗じてウイグルなど少数民族の弾圧を正当化し、情報統制を強化していると語った。さらに、その実態を明らかにしたために、スケープゴートとして国外退去にされたとの見方を示した。一問一答は次の通り。(パリ 岡部伸、写真も)

テロを捏造?

 −−なぜ、国外退去にされたのか
 「昨年9月、新疆ウイグル自治区の山岳部にある炭鉱が襲撃され、作業員や警察官十数人が死亡する事件があった。しかし、当初、一切報じられなかった。米国の『ラジオ・フリー・アジア』によると、3人の指導者の下、幼児や女性を含む部族とみられる数十人が山岳地帯の洞窟に逃げ込んだ。事件は自治区内の部族間対立のようなもので、犯罪行為に過ぎなかった。

 ところが、11月にパリで130人が死亡した過激派組織『イスラム国』(IS)による同時多発テロ事件が起きると、突然、中国メディアが同自治区で『国外の過激組織に指揮された武装テロリスト28人を掃討した』と報じた。

 事件から2カ月近くもたって突然、発表されたことに違和感を覚えた。しかも中国の習近平国家主席は、フランスのオランド大統領に弔電を送り、『フランス、国際社会とともにテロに打撃を与えたい』と伝え、王毅外相は『中国もテロの被害者』として、『反テロ統一戦線』の構築を訴えた。

 自治区内の犯罪行為をテロと呼んでいいものか。中国政府は少数民族、ウイグル族に厳しい弾圧を行っている。ウイグル族が反乱を起こしたとしても中央政府の強圧的な民族政策への抵抗という側面がある。

 実際、『ラジオ・フリー・アジア』によると、テロリストとして殺害されたのは28人でなく50人で、リーダーの孫など婦女子17人が含まれていた。彼らが中国政府がいうジハーディスト(イスラム過激派の聖戦主義者)だとは到底思えなかった。

 パリのテロ事件の3日後に、『中国政府がフランスとの連帯を訴える背景に、ウイグルの人たちへの弾圧に国際社会の理解を得ようという思惑がある』との記事を書いた。中国政府は、地方の復讐劇をISのテロだと捏造して、ウイグル弾圧正当化のプロパガンダにパリのテロを利用していると伝えたかった」

愛国メディアが過剰反応

 −−どのような反応があったのか

 「記事が掲載された2日後、中国共産党の機関紙、人民日報系で、愛国主義を打ち出すタブロイド紙『環球時報』が『一線を越えた』『現実をねじ曲げ、でまかせを書いている』と、私を名指しで攻撃する社説を掲載した。ウイグル族を抑圧したい愛国主義者たちは私の記事に立腹したのか悪意と誤解から事実誤認が混じった内容で、私の言葉を変えて引用していた。

 『環球時報』は何度も私を攻撃し、記事掲載1週間後、私は『テロリストの友人』『テロ行為を支援している』と攻め立てられた。中国は外国メディアがウイグル族のテロ行為を民族問題とみることを『ダブルスタンダードだ』と批判する」

3度の謝罪要求

 「『環球時報』が報じたのをきっかけに、中国外務省が記事の撤回と謝罪を3回にわたって迫ってきた。外務省は大変当惑している様子で解決方法を見いだそうと謝罪を迫った。『環境時報』の報道は誤りであると説いても聞き入れなかった。私としても、自分が話しても書いてもいないことで謝ったり、訂正したりすることはできない。

 そうすると報道官は『テロの片棒を担ぐ誤った言論を謝罪しておらず、もはや中国での取材活動を続けるにはふさわしくない』との声明を発表した。取材に必要な記者証の更新は認められず、昨年大みそかの夜、日付が変わる1時間前に、事実上の国外退去を余儀なくされた」

経済関係に配慮?

 −−仏政府の支援はなかったのか

 「在北京仏大使館など仏政府は懸命に行動し支えてくれた。帰国する飛行機の搭乗口まで大使館員がサポートしてくれた。仏外務省は言論と表現の自由に反するとの声明も出した。しかし、いかんせん事態がすぐ大きくなり、対応が遅すぎた。メディアの多くも応援してくれたが、決定を覆すに至らなかった。

 パリに戻ってからも上院議員らを通じて仏政府に働きかけているが中国政府を非難するに至っていない。欧州全体がそうであるが、経済関係を配慮してか、中国に強い立場を取れないのかもしれない」

在パリの中国女性が密告

 −−仏語の記事を中国当局はどう検閲したのか

 「2009年から6年間北京で特派員を務め、1979年から89年まで10年間学生として中国に滞在したが、初めての経験だった。新疆ウイグルについては、2014年に当局による弾圧の実態などを詳しく書いたがおとがめはなかった。

 今回、ウエブサイトに掲載された私の記事をパリ在住の中国人女性が見つけて北京の『環球時報』にコメント付きで送ったようだ。中国人の立場から、『新疆に住む全ての人、ウイグル族の全ての人がテロリストではない』という私の記事に不快感を示し、“密告”のような形で伝えたという。彼らは、『ウイグル族全てがイスラム原理主義過激派テロリスト』との立場だった。

 私は中国を語る上で、チベットや新疆ウイグルの少数民族が不可欠だと認識しているが、中国の大多数である漢族の国民は、少数民族の実態をほとんど知らない。だから、外国人ジャーナリストとして彼らよりは中国を理解していると自負していた。その後、すべてはパリ在住の中国人女性の『環球時報』への通報から始まった」

 −−この中国人女性は、在パリ中国大使館の外交官や情報部門の専門家ではなかったか

 「パリでビジネスをやっている女性だと聞いた。大使館の職員ではない。あくまで民間の立場でパリでフランス語を使って滞在している。もしかすると民間人の身分で仏メディアの記事をチェックする情報機関に関わっている人間かもしれない。最近、中国は外交官ではなく民間人の立場で外国メディアを監視しているとも聞いた」

産経 2016.1.25
http://www.sankei.com/world/news/160124/wor1601240012-n1.html