ごく個人的な話。先日、日本の仏教フェスなるものに参加してきたのです。意外にも若者、それもおしゃれ系男子&女子がたくさんいたことに驚いていたばかり。そんな若者達は、果たして「ダライ・ラマ14世」についてどれだけのことを知っているのでしょう。名前は聞いたことがあっても、法王の素顔やチベット仏教に触れたことのある人は、決して多くはないのではないでしょうか。そんな私達に分かりやすく語りかけてくれるのが、今回ご紹介するドキュメンタリー『ダライ・ラマ14世』です。
チベット仏教の最高指導者、観音菩薩の生まれ変わりとされる僧侶、ノーベル平和賞受賞者。その神々しい肩書きとは裏腹に、本作が追った素顔のダライ・ラマは驚くほど人間らしいお坊さん。カメラの前で鼻をかみ、歩きながら歯も磨く。取材陣でも誰でも会う人の腕をとっては高らかに笑う姿はなんともお茶目。一気に親近感が湧いてきます。

そんな彼は東京の街頭で募った“ダライ・ラマへの質問”にひとつひとつ答えてくれます。「暴力のない強さとはなんですか?」「髪を伸ばせたらどんな髪型にしたいですか?」「どうして人間はたくさんいる中で試練がある人とない人がいるのですか?」「日本人は平和のために何ができるでしょうか?」

彼の出した答えは決して難しいことではなく、いたってシンプル。スーッと胸に入ってきます。しかし、その答えこそが彼の国、チベットへの思いと重なるのです。

本作では、ダライ・ラマの素顔だけでなく、チベット亡命政権で暮らす子どもたちの姿も映しだされています。「勉強することが好き」「欲しい物はない」「ある物で満足している」と答える子どもたち。一方で日本人に同じ質問をしたときの反応に、「豊かさ」とは一体何なのかを考えさせられてしまいます。

また、チベット仏教にも焦点を当てています。チベット国境近くのラダックで行われる全身を投げだし、身の丈の分だけ進む“ゴチャック(五体投地)”。「この世のすべての生き物が幸福でありますように」と自分だけではないすべての物への幸福の祈りは、物に囲まれ、膨大な情報に溢れる日本に暮らす私達に、何かひとつの気づきを伝えているようにも思えてきます。

ダライ・ラマは「仏教に絶対はない。多角的に見ることができることは、相手を受け入れ理解する力になる」「広い視点で見なさい」と何度も語りかけます。

日本も今年戦後70年。この機会に、本作に触れてみることで、あらためてシンプルに平和について考える時間を作ってみるのも、いいかもしれません。

http://www.cinemacafe.net/ 06. 01, 2015
http://www.cinemacafe.net/article/2015/06/01/31604.html