訪日客の急増で商店街や観光地がわきたつ日本とは反対に、中国の旅行関係者の顔色がさえない。海外から中国を訪れる人の減少に歯止めがかからないのだ。日本をはるかに上回る観光大国のはずの中国でいったい何が起きているのだろうか。

 中国国家観光局によると、2014年1〜11月に中国を訪れた人の数は1億1691万人で、前年同期と比べて1.1%減った。13年は前年比で2.5%、12年も同2.2%減っており、不振が一過性のものではない可能性が高まっている。

■中央よりも地方に危機感


 そうしたなか、観光業にからむ会合が江西省の省都、南昌で相次いで開かれた。一つは、地方政府の観光行政の担当者や企業、研究者が集まった中国観光産業発展年次総会で、開催は1月13日。もう一つは、15〜16日に開かれた全国観光工作会議で、こちらは国家観光局の幹部らが出席した。

 工作会議はいかにも中央政府の会議といった内容で、指導者を礼賛する言葉が並んだ。例えば、国家観光局の李金早局長は「観光は修養を積む道だ。中華民族は万巻の書を読み、万里の道をゆくことを古来より尊んできた」という習近平国家主席の言葉を伝えた。壮大すぎて、観光ビジネスとどう関係があるのかちょっと分かりにくい。

 続いて、李克強首相の言葉の紹介だ。「内需拡大や緩やかな成長、雇用の増加、貧困の減少などで観光業が果たす役割を発揮するよう、首相は我々に求めている」。こちらのほうが経済には関係しているが、やはり具体性に欠ける。

 直前に開かれた観光産業発展年次総会は違った。例えば、福建省の朱華観光局長は旅行者の減少に触れ、「国際的な金融危機がもたらした経済の長期的な低迷や人民元レートの上昇、宣伝方法が時代遅れといった問題がある」と強調した。中央と比べ、地方は問題がずっと身近だからだろう。


 中国社会科学院の世論調査の専門家、劉志明氏の発言はもっとインパクトがあった。「中国への旅行に影響している要因は国や地域によって大きく異なるが、共通の要素もある。すなわち中国の国家イメージの低下だ」

 これを習氏の「修養を積む道」という言葉に照らすと皮肉に聞こえなくもないが、劉氏の説明には根拠がある。社会科学院は観光関連の新聞社と共同で、23カ国・地域の2万3000人を対象に14年に世論調査を実施した。

■「汚染」や「腐敗」が主要な原因

 劉氏の発言はその結果を踏まえたもので、「イメージの低下」とは具体的には「深刻な環境汚染、貧富の格差の拡大、腐敗、治安の悪さ、食品安全」などを指す。「イメージの低下が、中国を訪れる人のここ2年の減少の主要な原因だ」と言い切った。

 これは重大な指摘だ。統計で「中国を訪れる人」が減っているのは事実だが、じつはそこに占める外国人の比率は2割しかない。大半は香港やマカオからの訪問客で、それらが軒並み減っている点が大きい。中国を漠然とイメージする外国人だけではなく、政府が「同胞」と呼ぶ人びとも足が遠のいているのだ。

2014年に日本を訪れた外国人は前年比3割増の1341万人となった(14年10月、東京・浅草)=共同
 すると、観光客の減少にとどまらない違った姿がみえてくる。環境破壊や格差の是正、食品安全の確保は、中国が持続可能な成長を実現するうえで必須の課題。それがうまくいかないことへの不満が国内で強いが、同じ課題が中国を訪ねる同胞たちの心理に影響し、観光業の足を引っ張っている可能性があるのだ。

 米国を猛追する中国経済だが、その動向は国境の外にいる華僑経済と無関係ではない。よく中国への投機マネーの流入が問題になるが、香港をはさんで出入りする資金の多くに華僑がかかわっているという見方がある。中国を訪ねる「外国人」にも、多くの華僑が混じっているとみられる。この点が、日本経済にとっての「海外」との大きな違いだ。

 劉氏は会議で「前途には光明はあるが、しかし曲折もある。宣伝の情報量だけではなく、質を高める必要がある」と強調した。山積する社会問題の解決を避けていては、「質」の向上をアピールすることはできない。相手は、中国の実情をつぶさに知ることのできる同胞たちなのだから。

日経 2015/1/26
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82283780T20C15A1000000/