APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議開催中の北京で日中首脳会談が行われた。カメラの前では、習近平主席は、「お会いできて光栄です」と言う安倍晋三首相に一言もなく、ぶすっとしたまま。会談時間はわずか25分、2往復の対話を行っただけとか。習主席は心底、安倍首相と会いたくなかったのだな、という印象だ。安倍首相も、そんな相手となにも無理して会わなくてもいいだろうに。正直、この会談を見て、おお日中関係改善だ、めでたい、と明るい気分になれない。
 おそらく日中の外務当局者同士は、当人たちの不機嫌などお構いなく、なんとか会談を実現させようと四苦八苦したのだろう。ボス同士が一度くらい会わないと、子分たちも顔を合わせずらいということかもしれない。

 会談前に発表した異例の「四つの原則に関する合意文書」は、その官僚たちの苦労が玉虫色に輝くものであった。有体に言って、25分の不機嫌な会談よりも、この合意文書発表が今回の日中首脳会談のハイライトであったと言えるだろう。

 中国は「釣魚島(尖閣諸島)について日中間に争議があると認めること。首相は在任中に靖国神社に参拝しないこと」の二条件を飲まなければ会談しないといっていた。一方、安倍首相は前提条件無しでの会談を、と主張した。会談が実際行われて、この二条件はどうなったのか。日本のほとんどのメディアは「前提条件なしの会談にこだわり、それを貫いた」譲歩無しの会談と評価している。だが中国の党報は「中国の外交勝利」と報じ、中国が妥協せずに闘争した成果、としている。では、どちらかがウソをついているのか。

 譲歩はあったのか、なかったのか。譲歩しないことに合意したのか。お互い譲歩しあったのか。お互い譲歩しないことで合意したのか。どのようにも解釈できる魔法の合意だから、いいんじゃないか、と日本の官僚ならばいいそうだが、国際社会は、この文書をどう読み解くのだろう。

いやな感じがする日本の譲歩

 私はまず新華社配信の文書を一読して、日本が譲歩したのだと思った。そして日本政府側の譲歩していない、という説明を聞いたあとで、日中の政治認識ギャップが大きすぎると思った。

 外交というものは、こういう認識のギャップがしばしば発生するものだし、そのギャップを利用してその後の外交を展開していくものかもしれないが、これはなんかいやな感じがする。

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2014年11月12日 日経