習近平国家主席率いる中国共産党が言論統制を強めている。中国メディアの記者を対象にした大規模研修を行い、沖縄県・尖閣諸島の領有権問題で日本に譲歩しないことを求める「反日指令」を下した。公安部・国家安全部など党の情報機関もインターネットの監視体制を強化し、日本とつながりのある知識人やメディア関係者を次々と拘束している。北京市の天安門広場で自爆テロが発生するなど不穏な空気に包まれる大国。反日工作の背景に何があるのか。

 北京市の天安門前で28日に起きた車両突入の自爆テロ事件で、中国公安当局は、ウイグル族の複数の容疑者が関与していると断定した。

 新疆ウイグル自治区では民族対立などから過激な暴力事件が続発しているが、事件が首都にも及んだことに当局は衝撃を受け、社会不安を防ぐため事件をトップニュースに位置づけないようネット各社に指示、報道規制にまで乗り出した。

 だが、疑念は広がる。「本当にウイグル族の犯行なのか」「民衆の不満が暴発したのが真相なのではないか」−。当局が断定してもなお、ネット上などでさまざまな観測が流れるところに、揺らぐ中国の危うさがみてとれる。

 そんななか、中国共産党が、大々的な反日プロパガンダをスタートさせることが判明した。先兵役は同国の新聞、テレビなどの記者25万人。党の厳しい管理下に置かれ、「党ののどと舌」と称される彼らを対象に、10月中旬から気になる研修を始めたのだ。
 「来年1月から2月にかけて予定される記者免許更新試験に向けて実施されたもので、社会主義の基本理念であるマルクス主義など6つの分野に関する研修だ。中国共産党の方針を記者たちに徹底させ、メディアの統制をより厳しくする目的があり、試験をクリアしなければ今後の取材活動はできなくなる」(外務省関係者)

 関係者によると、研修を主導したのは、党の宣伝工作を取り仕切る中央宣伝部とみられ、その研修のなかで、日本に対する露骨な強硬方針が示されたという。

 「尖閣や歴史認識の問題について、日本政府の立場を激しく非難し、これらの問題に譲歩する主張を伝えないよう、半強制的に反日報道を行うよう求めた」(同)

 本格的な反日メディア工作に取りかかった一方で、ネット内の情報統制も加速させている。

『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)の著書で知られるジャーナリストの富坂聰氏は「ここ最近、日中友好関連イベントの中止や延期が相次いでいるが、ネットの監視も強化され、特に中国版ツイッターといわれる『新浪微博』の規制が厳しい。書き込みが原因で(体制を批判した人物のなかから)逮捕者も出た。そこにきてのこの『反日』(強化)で、共産党首脳部が日本との関係を整理しはじめているのは確かだ」と話す。

 政府による弾圧が疑われるケースを、米ニューヨークに本拠を置く中国語衛星テレビ放送局「新唐人テレビ」が9月に報じている。

 同局によると、8月に湖南省で起きた車とバイクの交通事故で、この事故に絡んで「警察が不正を働いた」などと糾弾する内容をネットユーザーが書き込んだ。その後、当局が、情報を発信したユーザーを特定し、「デマを流した」として逮捕したという。

 「(逮捕された)彼は、『新浪微博』で12万人のフォロワーを抱える有名人だった。普段から共産党官僚の腐敗などを告発していたことから、『影響力のあるネットユーザーを標的にした言論封殺ではないか』との声が相次いだ」(富坂氏)

 こうした流れのなかで、不気味なのは、公安当局が日本と接点のある中国人への監視と弾圧も強めていることだ。

 「7月には、東洋学園大教授の朱建栄氏が上海に渡航したまま連絡を絶ち、国家安全部から情報漏洩容疑で取り調べを受けていることが明らかになった。日本で発行されている中国語新聞『新華時報』の編集長、蘇霊氏も北京で消息を絶ったままだ」(外交筋)

 ほかにも日本との関わりを持つ、複数のメディア関係者の行方がわからず、在日中国人社会に動揺が広がっている。


 ある中国人実業家は「公安や国家安全部は拘束候補のリストを作っているという話もある。仲間内では『次はあいつが危ない』と噂し合っていて、皆ピリピリしている」と声を潜める。

 彼らがおびえるのは、公安当局の恐怖を身をもって知るからだ。

 拘束された経験を持つ中国人男性は「われわれの間では、やつらの取り調べは『双規』と呼び、恐れられている。連行された後、逮捕に至るまで軟禁されるが、これが実にきつい。自分がどこにいるかわからず、誰とも話せない状態が延々と続く。居場所は家族にも知らされず、精神的に疲弊していく」と明かす。

 メディア操作にネット弾圧、情報機関の暗躍。党首脳部の思惑はどこにあるのか。

 富坂氏は「メディアに『反日』を徹底させるのは、民衆の不満を仮想敵国である日本に向けさせるため。これにあわせてネットの監視体制を強化し、政権批判を封じ込めようとしている。情報機関による相次ぐ拘束は、恐怖心を植え付けることで党の綱紀粛正を図りたかったのだろう。習氏が、党の存続に相当の危機感を持っている証拠ともいえる」とみる。

 反日強化は、揺らぐ党と焦る習氏の心の表れというわけか。

2013.10.30 ZAKZAK
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20131030/frn1310301810006-n1.htm