先日の反日デモがエスカレートした背景には、中国経済の悪化があるとの見方がある。米ゴールドマン・サックス証券によれば、日本の対中国直接投資は2011年に前年比74%増の126億ドル(9800億円)。最近の日中関係の悪化、中国国内の反日運動による事業の障害などから、日本企業の中には対中国直接投資をあきらめるところも出ている。これは、世界でも同じで、外国企業の対中投資は1〜8月累計で3・4%減となっている。
 これらは政治的な背景だけでなく、中国の経済成長が鈍化しているからでもある。中国の代表的な株式指標の一つである上海総合指数はリーマン・ショック直後以来となる2000割れに迫っている。

 そもそも中国の今の状況がバブルなのかだろうか。しばしば政府関係者などが口にするのが、「1平米あたり月収の2カ月分以内ならバブルでない」というものだ。そして、今はギリギリ違うという論法だ。もっとも夫婦子供2人で80平米とすると、160カ月分の月収というわけで、13年分の年収に相当する。かつて日本で5・5年分の年収以上だったら住宅価格が上がり過ぎという議論から見ると、日本人の目から見れば確実にバブルにみえる。

 中国を考える時に、本コラムでよく出てくる「国際金融のトリレンマ(自由な資本移動と金融政策の自由度、固定相場制の3つの政策を同時に実現できないこと)」が必要だ。一般に先進国では、外資導入のために自由な資本移動は必須となるので、固定相場制と自由な金融政策のチョイスになる。

 これを中国に当てはめると、中国はまだ自由な資本移動とは言えないかもしれないが、そのうち自由な資本移動になる。とくに、外資の引き上げという話が出てくると、外資規制は行えなくなるので、そのスピードは速まる。

 つまり、いずれ将来、固定相場(ドル・ペッグ)をとるか、自由な金融政策をとるかになる。これまでのところ、政治的に輸出主導の勢力が強かったのでドル・ペッグになっていた。そのため、国内にマネーが多くなり、それが金融資産・不動産市場に向かって、バブルを起こしているように筆者にはみえる。

 いまの株価を見ていると、それは一部崩壊しつつある。株式市場と不動産市場はともに資産市場なので、似たような動きになる。ただし、株式市場のほうが2年くらい動きが先行する。今の株式市場の動きから将来を大胆に予測すると、今後2年くらいで大規模な不動産市場でのクラッシュがあるかもしれない。

 もっとも、「バブルは崩壊して初めてわかる」というグリーンスパン前FRB議長の言葉もあるので、事前に予測するのはかなり難しい。

 ただ、今回の日中での関係悪化が表面化し、中国経済を実は裏から支えている対中直接投資が一斉に引き出されるようだと、バブル崩壊は意外と早く来るかもしれない。対中ビジネスの関係者にとっては、目先の政治環境悪化とともに頭の痛い話だろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

2012.09.30 zakzak
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