【北京=矢板明夫】丹羽宇一郎駐中国大使が乗った公用車が中国人とみられる男に襲われた事件は、中国の国家イメージを損なう一大不祥事にもかかわらず、インターネット各社の世論調査では、多くの中国人が男の蛮行を支持した。国際社会における中国のこうした“異質さ”の背景には、共産党政権が指導してきたいびつな愛国主義教育と、高圧的な統治により一般国民が不満を表現する合理的手段をもたない現状がある。
 「大使襲撃事件」は中国国内でも大きく報じられた。28日付の朝刊各紙に「冷静な対応を呼びかける」識者の意見などが掲載されたが、インターネットでは男を支持する意見が圧倒的に多かった。大手ポータルサイト、騰迅網の調査では、28日午後までに寄せられた約2万4千件の回答のうち、男を支持するのは1万8千件を超え、反対意見は4分の1にも届かなかった。ほかのサイトの調査も同じような結果だった。

 男を支持する理由として「外交交渉が通じないなら実力行使しかない」といった類いの意見が少なからずみられた。その理屈は100年以上前に起きた義和団事件を彷彿(ほうふつ)させるものだ。

 1900年に起きた義和団事件とは、外国の影響力拡大に不満を抱いた山東省などの民衆が蜂起し、北京の各国大使館を襲撃し多くの死傷者を出した事件だ。しかし、共産党政権は同事件を「反帝国主義の輝かしい農民闘争」と位置づけ国民に教えてきた。今回の事件を起こした男も、こうした愛国主義教育の影響を強く受けた世代の可能性がある。また、合法的なデモや抗議活動が実質禁止されている中国では、国民は不満を表現する手段をもたない。いったん怒りが爆発すれば、暴徒化しやすい傾向がある。
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産経新聞 2012.8.28
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