「生きることは分かち合うこと」−。梅沢産婦人科医院(鳥取市南吉方3丁目)の助産師、川口映子さん(48)は、アジアの赤ひげ先生とも呼ばれた故岩村昇氏(1927〜2005)の言葉を胸に深く刻む。地域の妊産婦を支える傍ら、アジア諸国での医療支援活動にも積極的に携わり、今年も8月にネパールへ向かう。


 小学生の頃、ネパールで結核の治療予防などに尽力した岩村氏の著書を読んで深く感銘を受け、看護師を志した。岩村氏ゆかりの団体からバングラデシュでの活動に誘われたのをきっかけに、フィリピンやインドネシアなど東南アジアを中心に支援活動に従事。看護師だけでなく助産師、保健師などさまざまな役割が求められることを活動を通じて痛感し、40歳で一念発起して助産師の資格を取得した。

 ネパールは妊産婦死亡率の高い国の一つ。昨年は約1カ月間滞在し、助産施設立ち上げ準備に取り組んだ。現地では妊産婦が定期的に健診を受けるのは非常にまれで、医療に従事するスタッフですら衛生面などの知識に乏しく、課題は多い。

 「世界で亡くなる妊産婦の99%はサハラ砂漠以南のアフリカと南アジア。原因は不衛生な環境による感染症や多量の出血が圧倒的で、簡単な知識があれば防げる死も多い。まずは情報の提供と人づくり、教育が大切」

 今回はNGOと連携して現地医療スタッフの指導や妊産婦健診、家庭訪問を実施する。日本で用いられるような機械類は一切なく、健診は体重、血圧、尿検査など簡素な内容に限られる。訴えを聞いたり触ったりという基本が重要だ。「本来の姿に立ち返って妊婦さんと本当の関わりが持てる。帰国後も生かせる経験になる」と活動に向け力を込める。

 一般の若い世代への教育も重要で、首都カトマンズで中高生を対象に性教育の講演を行う予定だという。

 「海外に行くことを後押ししてくれる同僚や家族に感謝している。自分にできることをこつこつしていきたい」と川口さん。岩村氏の「時間やお金、技術の10%を国外の弱い立場の人々と分かち合う」という理念を胸に、今後も活動していく。

日経 2012年07月08日 
http://www.nnn.co.jp/news/120708/20120708005.html