【北京=川越一】旧正月を祝う春節に入ってから、中国四川省のチベット族自治州で住民による抗議行動が続発している。治安部隊の発砲で少なくとも3人が死亡。国際社会からの批判が集まる中で中国当局は現地の統制を強化する一方、中国共産党機関紙は連日、人権状況の改善をうたって反論している。

英国を拠点とする人権団体などによると、同省カンゼ・チベット族自治州炉霍県で23日、チベット族住民数人の拘束に抗議する群衆に治安部隊が発砲し、1人が死亡した。24日には同州色達県に飛び火し、治安部隊の発砲で1人が死亡。26日にもアバ・チベット族チャン族自治州壌塘県で1人が犠牲になった。

 国営新華社通信も、衝突で死者が出たことを報じ、治安部隊が発砲したことも認めるなど異例の対応を取った。しかし、僧侶の焼身自殺などに関する情報に扇動された住民が、刃物を手に警察署を襲撃したことに対する「正当防衛」と強調。襲撃は「計画的かつ組織的」と主張して、亡命チベット人勢力や外国勢力の関与を示唆した。

抗議行動が拡大の様相を見せる中、オテロ米国務次官(チベット問題担当特別調整官)が中国政府のチベット政策を批判し、治安部隊の自制を要求。人権団体は除夕夜(旧暦の大みそか)の22日を選んだかのように年度報告を発表し、中国側の感情を逆なでした。

 欧米サイドとしては、2月に訪米予定の習近平国家副主席とオバマ米大統領との会談で、中国の人権問題を議題に上げる心づもりとみられるが、人権侵害の認識がない中国を相手に話がかみ合うはずもない。

 一方、党機関紙、人民日報は連日、「中国の人権状況は史上最高の時期にある」などとして、チベット族に対する優遇政策の成果を強調し、人権問題の政治化を牽制(けんせい)する論文を掲載している。

 住民の通信網を監視・遮断し、武装警察に加え人民解放軍を投入して統制を強めているとの情報もある。これらの措置も、中国当局から見れば「国情に合った管理」であり、国際社会の批判はすべて「偏見」によるものだという姿勢に、議論の余地はなさそうだ。

産経新聞 2012.1.30
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120130/chn12013020230003-n1.htm