中国四川省のチベット族居住区で、中国政府のチベット政策に抗議するデモ隊と治安部隊との衝突が拡大している。インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府によると、これまでに少なくとも6人が死亡、約60人が負傷した。米国は「重大な懸念」を表明。来月中旬の習近平国家副主席の訪米ではチベットを含む人権問題も焦点となりそうだ。
 亡命政府によると、四川省甘孜(かんし)チベット族自治州炉霍(ろかく)県で23日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世のチベット帰還を求めるデモ隊に治安部隊が発砲、3人が死亡した。隣の色達県でも24日、治安部隊の発砲で2人が死亡した。24日の発砲について国営新華社通信(英語版)は、デモ隊が警察の派出所を襲撃したため自衛で発砲したと伝えた。

 四川省アバ・チベット族チャン族自治州の壌塘(じょうとう)県では26日にチベット族のデモ隊に対する治安部隊の発砲で20歳の男性1人が死亡。米政府系の自由アジア放送(RFA)は、男性の射殺に抗議するために約1万人の抗議デモが予定されていると伝えた。デモ隊は、チベットの独立などを求めるビラを張っていたチベット族男性が拘束されたことに抗議していたという。

 現地では治安部隊が多数投入され、道路が封鎖されるなど緊張が高まっている。情報も統制されているとみられ、現地の一部地域への電話は通じない。壌塘県の住民は毎日新聞の電話取材に「何も分からない。警察に聞いてほしい」とだけ話し、慌てた様子で電話を切った。

 チベット自治区では、中国の春節(旧正月)直前の22日、国旗を掲揚する式典があり、これに合わせ各地の寺に国旗や胡錦濤国家主席ら国家指導者の写真が大量に送られ、掲げられた。これに一部のチベット族が強く反発したことが抗議の背景にあるとみられる。

 四川省や青海省のチベット族居住地域では近年、中国政府への反感がくすぶり、中国政府の抑圧に抗議して昨年3月以降で少なくとも16人の僧侶が焼身自殺を図った。チベット亡命政府は「非人道的な抑圧政策はチベットのアイデンティティーを破壊するものだ」と非難を強めている。

 米国務省のヌーランド報道官は24日、チベットなどの人権問題を巡り米国の懸念を表明したうえで、習副主席の訪米時にオバマ大統領との会談などで、人権問題の改善を求める見通しを示した。

 中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は24日、「中国政府の信用を傷つけようとしているチベット分裂主義者の企ては成功しない」と述べ、事件に亡命チベット人が関与しているとの見方を示した。

毎日新聞 2012年1月29日
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