モンゴルで6月、伝統的な遊牧生活を体験できる初のテーマパークがオープンした。遊牧生活をやめて首都に定住する「元遊牧民」が相次ぎ、モンゴルの伝統を知らない子供が増えているためだ。社会主義経済から市場主義経済に移行して20年。豊富な地下資源で経済成長する草原の国で、伝統の薄れと貧富の格差が同時進行していた。
 首都ウランバートルから西へ約45キロ。草原の中に、遊牧民の生活を再現した「モンゴル ノマディック(遊牧民)」はある。

 伝統衣装を着た従業員が、馬に乗りながら地面に置いた帽子やコインを手で拾うアトラクションを披露したり、ゲルと呼ばれる移動式テントでバイキング形式の伝統料理を味わってもらう趣向だ。


伝統的な遊牧生活を体験できるテーマパーク。モンゴルでは遊牧生活を知らない子供が増えている
 運営会社のバヤル・ザグド社長(40)は「昔、子供は馬に乗ったり、乗馬のマネをしたりしたものだが、最近はバイクに乗るマネをする」と語り、「遊牧民とは何か。それをモンゴルの子供にも見て知ってほしい」と話した。

 モンゴルは90年に社会主義を事実上放棄した後、中国に引っ張られる形で経済発展。この10年余の成長率は2ケタ近い伸びだ。対中貿易額は全体の8割に達し、銅や石炭の輸出も好調で、原子力発電所向けのウラン、レアアース(希土類)の開発も計画が進む。

 通訳の30代のモンゴル人女性によると、「馬から車に乗り換えろ」と言わんばかりに中古車が売れており、車を2台持つ家庭も多い。首都の渋滞は日常となり、市中心部に09年に完成した17階建て高層ビルには、ルイ・ヴィトンなどブランド店の出店が相次ぐ。

 だが、社会主義時代にはなかった「ひずみ」も生まれている。

 モンゴルでは、冬季に凍死する家畜も少なくない。社会主義経済時代は家畜は「共有財産」で公的支援があったが、市場経済化で「私有財産」となり、支援はなくなった。

 家畜を失った遊牧民たちは遊牧生活を放棄し、首都郊外に流入してゲルを建て始めた。ウランバートルには総人口の45%が集中。一部ではスラム化し、首都人口120万人の6割が「元遊牧民」とされる。

 レンツェンドー・ジグジッド駐日大使は「都市部のインフラが追いついていない」と話す。ゲル集落の失業率も10%を超え、その多くが若者だ。貧富の格差が進めば社会不安に発展する恐れもある。

毎日新聞 2011年9月7日 東京朝刊
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