「陳情(直訴)者の常連の99%は精神に問題がある。偏執的な精神障害だ」。北京大学の教授が中国メディアの取材でこう発言し、陳情者が大学に抗議に押し寄せ大騒ぎになった。真意は不明だが、弱者の痛みを知らぬ発言だ。

陳情とは、主に地方の司法機関の不正や政府による土地強制収用、当局の暴行などで人生をねじ曲げられた人々が、地方から北京に来て中央機関に“直訴”することを指す。いわば中国社会の暗部が凝縮されており、北京には陳情者が住み着く通称「直訴村」と呼ばれる区域がある。

陳情の推移を取材し続けてきたので、直訴者の友人も多くなった。北京に住み着いて10年、20年の者もいる。春節(旧正月)前の大みそかなどは、決まって野宿する直訴者の友人数人に「気持ち」としてできる範囲のお年玉を渡してきた。

「強盗殺人の共犯」とされて10年近く服役し、出所後に「冤罪(えんざい)」だと直訴を続ける人。子供を当局に殺害されたと訴える人、戸籍がなく野宿を続け、氷点下の寒風の中で死亡したお年寄り…。直訴村にある最高裁の陳情窓口の近くで、保安要員に暴行された女性もいる。そうした怨恨(えんこん)は想像を絶する。

私の電話番号が出回っていて、早朝に知らない直訴者から電話がくるときも多い。彼らは必ずこう訴える。「何とか助けて。お願いします」(北京 野口東秀)

産経新聞より 2009年4月20日
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090420/chn0904200418000-n1.htm